
1. 2025年6月医療事故報告の概要
報告された医療事故の大半、88.7%は既に院内での調査が完了しています。院内調査とは、事故が発生した医療機関が自ら事故の原因や背景を調査するプロセスです。これにより、自院の手続きや体制に問題がないか検証することが可能となり、医療機関自身が安全対策をより強化するための重要なステップとなります。
2025年6月には、病院から報告された医療事故が33件、クリニックからは3件の報告がありました。制度開始以来、報告された事故のうち95%が病院から、5%がクリニックからのものです。また、相談件数としては同月に新たに196件の相談があったことが記録されています。これは医療機関から105件、遺族などから84件の相談を受けており、制度の機能が広範囲にわたり利用されていることを示しています。
医療事故調査制度は、医療現場での事故を犯人捜しではなく、安全対策の構築に役立てることを目的としています。この事故調査によって、センターは具象的な再発防止策を構築し、医療現場全体に広く伝達することを目指しています。この制度を通じて、医療機関と患者双方にとってより安全な医療環境の構築が期待されています。
2. 日本医療安全調査機構による現況報告
この報告によれば、この月には新たに36件の医療事故が報告され、制度発足以来の累計報告件数は3433件に達しました。
これらの事故の88.7%については院内調査が完了しています。
\n\n機構は、報告対象となる医療事故を「院長などの管理者が予期しなかった医療に起因する死亡・死産事例」と定め、これに基づき事故の原因究明と再発防止を目指しています。
なかでも注目されるのは、19件の再発防止策と3件の警鐘レポートが発出されたことです。
\n\n再発防止策には、中心静脈穿刺合併症による死亡、急性肺血栓塞栓症、注射剤によるアナフィラキシーなどの事例が含まれ、それぞれのケースに対する詳細な分析と対策が盛り込まれています。
警鐘レポートでは、医療現場での迅速かつ的確な対応が重要とされる事例が取り上げられ、医療機関全体への警告が発信されました。
\n\nこのような取り組みは医療機関の安全対策を強化し、事故を未然に防ぐための貴重な指針となるはずです。
医療事故の報告とその背景分析、そして再発防止策の策定は、医療の安全性向上に不可欠なプロセスであり、制度の根幹でもあります。
また、医療機関管理者の研修推進も行われており、すべての病院、診療所、助産所に医療安全の責務が求められています。
\n\nこの報告を受けて、医療現場では改めて安全対策の重要性を認識し、日常の診療に活かすことが期待されます。
患者の生命に直結する医療現場では、何より「安全」が最優先であるべきであり、日本医療安全調査機構の取り組みはその指針をより明確に示しています。
3. 医療事故調査制度の運用プロセス
まず、制度が稼働する背景には医療事故の再発防止という目的があります。事故が発生した際、医療機関の管理者である院長などは速やかにセンターへ報告を行う義務があります。これが第一のステップです。この報告義務は、すべての死亡・死産に対して課せられるわけではありません。予期しなかった医療に起因すると判断される事例が対象となります。
報告が行われた後、医療機関内での【院内調査】が行われます。ここでは事故の原因を自ら分析し、再発防止策の構築に向けた検証が進められます。この過程で、医療機関は自らの体制やルールの改善点を見つけることが求められています。
そして、これらの調査結果と再発防止策は、センターへ報告されます。センターでは収集したデータをもとに、さらに分析を深め、全国の医療機関へ効果的な再発防止策を広く周知していきます。再発防止策としては、これまでにも多くの具体的なケースが公表されており、医療現場での安全性向上に寄与しています。
また、院内での調査が困難な場合や、結果に納得がいかない場合には、センター調査が行われることもあります。このようなプロセスを通じて、医療事故調査制度は医療の安全を確保し続けているのです。調査結果や再発防止策は日々積み重ねられ、公表されているため、常に最新の情報を把握することが重要です。
4. 相談件数から見る現場の課題
しかし、発足から約10年が経過した2025年現在、この制度にはいくつかの課題が浮き彫りになっています。
医療事故調査センターへの相談件数は累計で1万8404件に達し、ここから見えてくるのは、現場でのコミュニケーションの不足や未報告事故への懸念です。
\n\nまず、医療機関と遺族との間での信頼構築が求められています。
相談内容の多くは、遺族からの「報告されていない事故があるのではないか」という不安の声です。
これは、医療機関が事故報告に慎重になりすぎたり、何らかの理由で報告を躊躇するケースがあるためと考えられます。
\n\nまた、医療機関自体も初めての事故対応や報告の手順に戸惑うことが多いのです。
特に、中小の医療施設では専任のスタッフが不足していることから、事故調査や報告が十分に行われない可能性が指摘されています。
そのため、機構による現場への積極的な支援が必要です。
\n\nさらに、医療事故調査制度の理解不足も問題として挙げられます。
制度が開始された時点では、医療機関だけでなく一般市民への適切な周知が不十分だったため、誤解も生じやすかったのです。
これにより、医療機関側も報告の範囲が分からず、報告不要と判断して未報告となることがあります。
\n\nこれらの課題に対処するためには、制度の周知を一層強化し、医療機関と遺族の間に信頼を築く取り組みが求められます。
特に教育研修の強化によって、医療機関が事故報告をスムーズに行える体制作りが急務です。
本来、この制度は「犯人捜し」ではなく、再発防止に向けた前向きな取り組みとして受け止められるべきであり、その実現にはまず信頼関係の構築が不可欠です。
まとめ
特に医療安全調査機構による分析では、医療に起因する事故の報告とその分析を通じて、事故発生の背景や原因を的確に把握し、再発防止策を医療現場に適用しています。具体的には、中心静脈穿刺や急性肺血栓塞栓症など、高リスク手技や急変に繋がる事例について重点的に分析が行われています。
また、医療事故が発生した際には、医療機関が速やかに内部で事故調査を行い、結果をセンターに報告するという一連の流れが義務付けられています。しかし、これがスムーズに運用されるためには、報告対象の明確化や、調査スピードの向上が求められています。さらに、遺族への説明や情報共有の際の透明性もまた、重要な課題となっています。
今後、医療事故の再発を防ぐためには、制度の改善が必要不可欠です。具体的には、調査速度の改善、そして広く情報が共有されるためのシステムが求められます。それにより、医療の安全性向上が期待されています。また、医療機関のトップや関係者が最新の事故防止策について研修を受けるなどし、制度の強化にも力を入れていくべきです。
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