医療費の増加が現役世代の負担を増大させ、高齢化社会での持続可能な医療制度の構築が急務。

医療費増加の現状と現役世代への影響：持続可能な医療制度のために

1. 医療費の増加が与える影響：現役世代の重い負担

近年、日本社会において医療費の増加は避けられない大きな課題となっています。特に、世界でも類を見ないスピードで進む高齢化は、医療サービスの需要を飛躍的に増加させ、それに伴い現役世代が支払う保険料の負担は年々重みを増しています。

この医療費の増加が具体的にどのような影響を及ぼしているのか、具体的なデータを見ながら掘り下げていきましょう。厚生労働省の国民医療費の概況によると、国民医療費は一貫して増加傾向にあります。2021年度の国民医療費は45兆359億円に達し、前年度に比べて2兆2,382億円（5.2%）増加しました。国民一人あたりの医療費も35.9万円となり、これは前年度から1.8万円（5.2%）の増加です。これらの数字は、医療費の増加が単なる傾向ではなく、具体的な負担として国民一人ひとりにのしかかっていることを示しています。

とりわけ、企業などで働く人々が支払う年間の平均保険料は、この10年間で大きく増加しています。NHKの報道（2024年5月22日付）によると、企業の従業員と家族が加入する健康保険の年間の平均保険料は、10年前と比べて約6万円増加し、現在では54万4,143円に達しています。この金額は、企業と従業員がそれぞれ折半して負担しており、企業にとっても人件費の一部として大きなコストとなっています。

この保険料の上昇の背景には、2008年度に導入された後期高齢者医療制度が大きく関係しています。この制度は、75歳以上の後期高齢者の医療費を賄うために設けられましたが、高齢化の進展とともにその費用が急増しています。健保連（健康保険組合連合会）の予測では、2025年度の保険料率の平均は9.34％と過去最高水準に達する見込みであり、これは後期高齢者医療制度への拠出金が増加していることが主な要因です。

保険料の上昇は、企業の従業員やその家族の家計に直接的な影響を及ぼすだけでなく、企業側も従業員と同様に折半で負担を強いられるため、全体的な企業のコスト増加にもつながっています。これは、企業の競争力にも影響を与えかねない問題です。

このような状況を受け、今後、どのようにして日本の国民皆保険制度を維持し、高齢化が一層進む中で、持続可能な医療費の負担構造を築いていくかが社会全体の喫緊の課題となっています。政府や医療機関、企業、そして私たち国民一人ひとりが一体となって知恵を絞り、具体的な解決策を模索することが求められています。

参考資料：

厚生労働省「国民医療費の概況」（厚生労働省）
NHK「増加する医療費現役世代に重くのしかかる保険料」（NHKニュース）

2. 国民皆保険を支える健康保険組合と協会けんぽの役割

日本が世界に誇る国民皆保険制度は、誰もが安心して医療を受けられる基盤となっています。この制度を支える重要な柱が、健康保険組合と協会けんぽです。これら二つの組織は、企業とその従業員、または中小企業の従業員が主に加入する医療保険の形をとり、加入者の健康を守る使命を果たしています。

まず、健康保険組合についてです。これは主に大企業や同業種の企業が集まって設立するもので、その企業の従業員が加入します。企業と従業員の双方が保険料を負担しており、この制度は、加入者とその家族が病院などの医療施設で受ける医療の費用を賄うことを目的としています。全国には1,372（2023年4月時点）の健康保険組合が存在し、それらの組合は健保連（健康保険組合連合会）に加盟し、組織的に活動しています。

健保連の予算発表によれば、保険料率は年々増加傾向にあり、2025年度の平均料率は9.34％に達する見込みです。この背景には、高齢化による医療費の増加が挙げられ、特に後期高齢者医療制度への拠出金がその保険料率を押し上げています。健康保険組合は、加入者の医療費だけでなく、後期高齢者医療制度への支援金や、前期高齢者（65歳以上74歳以下）への医療費の拠出金も負担しており、その財政は年々厳しさを増しています。

次に、協会けんぽ（全国健康保険協会）についてです。こちらは、主に中小企業の従業員が加入する制度であり、政府が運営する公法人です。協会けんぽは、健康保険組合を設立していない中小企業の従業員やその扶養家族を対象とし、加入者の医療費の一部を負担します。協会けんぽもまた、後期高齢者医療制度への支援金を拠出しており、高齢者を支えるための費用分担において重要な役割を担っています。協会けんぽの保険料率は、各都道府県ごとに設定されており、地域ごとの医療費の状況を反映しています。

これら健康保険組合と協会けんぽは、複雑化する社会の中で、国民皆保険を維持しつつ、高齢者医療をも安定して賄えるよう調整されています。しかし、医療費の高騰という避けられない課題が横たわっており、今後も増え続けていくことが予想されます。したがって、持続可能な保険制度を目指し、いかにコストを管理し、質の高い医療サービスを提供していくかが、私たちの現代社会における大きなテーマと言えるでしょう。

健保連は、持続可能な医療保険制度の実現に向け、医療費適正化の推進や予防・健康増進の取り組みを強化しています。加入者一人ひとりが自身の健康に関心を持ち、積極的に健康増進に努めることが、結果的に医療費の抑制につながり、ひいては保険制度の維持に貢献します。

3. 保険料上昇の主要因：高齢化と医療構造の変化

医療制度の改革にも関わらず、私たちが支払う保険料が増え続けているのはなぜでしょうか。この問いに答えるためには、医療費の増加、特に高齢化の進展と医療構造の変化がその大きな要因となっている事実を理解する必要があります。

最も大きな要因の一つが、2008年度に導入された後期高齢者医療制度です。この制度は、75歳以上の方々を対象とした独立した医療保険制度であり、高齢化が進む日本において、全世代の医療費を賄う上で重要な役割を果たしています。しかし、それに伴う費用の増加が結果的に保険料率に跳ね返ってきているのです。

具体的な数字を見てみましょう。健保連の報告によると、健康保険組合の保険料率は2008年以降急激に上昇し、2025年度には平均で9.34％に達する見込みです。これはこれまでで最も高い水準であり、高齢化による後期高齢者医療制度への多額の拠出金がその主な要因とされています。全国の健康保険組合が後期高齢者医療制度に支払う拠出金は、2025年度には総額で約4兆6000億円に上ると見込まれており、これは各組合が徴収する保険料収入の約4割に相当する額です。

この制度設立以降、企業に所属する多くの従業員やその家族が加入する健康保険組合は、増え続ける医療費を理由に、企業と従業員が共同で負担する保険料を上げざるを得なくなっています。前述の通り、10年前と比べると、1年間の保険料は約6万円増加しており、これは現役世代にとって大きな経済的な負担となっています。

高齢化に加え、医療技術の進歩も医療費増加の一因です。高度な医療技術や高額な医薬品の登場は、病気の治療成績を向上させる一方で、全体の医療費を押し上げる要因となっています。例えば、新しい抗がん剤や再生医療といった分野は、患者に新たな治療の選択肢を提供しますが、その費用は従来の治療法と比較して高額になる傾向があります。

さらに、生活習慣病の増加や、予防医療への意識の低さも、医療費を増加させる要因として挙げられます。糖尿病や高血圧などの生活習慣病は、治療が長期にわたり、合併症を引き起こすリスクも高いため、継続的な医療費が発生します。また、健康意識の低さからくる喫煙や過度な飲酒なども、将来的な医療費の増加に繋がる可能性があります。

増え続ける保険料の背景には、このような医療費の増加が密接に関連しているのです。そのため、私たちはこの負担をどのようにして軽減するか、また持続可能な医療制度を維持するために何が必要なのかを、社会全体で真剣に考えていかなければなりません。

詳細情報：

国立長寿医療研究センター（国立長寿医療研究センター）
国立がん研究センター（国立がん研究センター）

4. 持続可能な医療制度の実現に向けた取り組み

医療費の増加が私たちの生活にどのような影響を及ぼしているのかについて、さらに深く考える必要があります。現在、私たちの社会保障制度、特に国民皆保険制度は大きな変革の時を迎えています。この制度の核となるのは、すべての人が必要な医療を受けられるようにすることであり、そのために現役世代を含む多くの人々が保険料を支払っています。

しかし、昨今の医療費の増加により、現役世代の負担が増し続ける現状があります。特に、企業と従業員がともに支出する健康保険組合の保険料は、過去10年間で大幅に値上がりしています。この負担の背後には、急速に高齢化が進行する中での高齢者医療費の増加があります。多くの健康保険組合は、これらの費用を補うために、より多くの資産と努力が必要とされているのです。

持続可能な医療制度を築くためには、多角的なアプローチが必要です。具体的な提案としては、以下のような施策が挙げられます。

予防医療の強化と健康寿命の延伸

病気になってから治療するのではなく、病気になる前に予防する予防医療を一層強化することが重要です。特定健診・特定保健指導の受診率向上、がん検診の推進、生活習慣病予防のための啓発活動などを通じて、国民一人ひとりが健康意識を高め、自ら健康管理に取り組むことを促します。健康寿命が延びれば、結果的に医療費の抑制につながり、現役世代の負担軽減にも貢献します。

厚生労働省「特定健康診査・特定保健指導」（厚生労働省）

医療提供体制の効率化と機能分化

病院の機能分化をさらに進め、急性期医療と慢性期医療、在宅医療の連携を強化することで、医療資源の適正配置と効率的な利用を図ります。例えば、地域の病院と診療所、介護施設が連携し、患者の状態に応じた最適な医療・介護サービスを提供することで、不必要な入院や重複受診を減らし、医療費を抑制することが可能です。また、オンライン診療やAIを活用した診断支援なども、医療の効率化に貢献します。

後発医薬品（ジェネリック医薬品）のさらなる普及

特許期間が終了した医薬品と同等の成分、効能を持つ後発医薬品（ジェネリック医薬品）は、先発医薬品に比べて安価です。ジェネリック医薬品の利用をさらに推進することで、薬剤費の削減に大きく貢献できます。国や自治体、医療機関が連携し、患者への情報提供や医師・薬剤師へのインセンティブ付与など、普及に向けた取り組みを強化する必要があります。

国民の意識改革と健康投資

医療制度は「誰かが払ってくれるもの」ではなく、「皆で支え合うもの」という意識を国民一人ひとりが持つことが重要です。個々人が自身の健康に責任を持ち、健康増進のための投資（運動、食生活の改善など）を積極的に行うことで、医療費の増加を抑制し、社会全体の健康レベルを向上させることができます。

現役世代の負担軽減策の模索

医療費控除の拡充や、保険制度の柔軟な見直しなど、現役世代の経済的負担を軽減するための具体的な施策も検討されるべきです。子育て世代や若い世代が安心して医療を受けられるような環境を整備することは、将来の社会を支える上で不可欠です。

このような多角的な取り組みにより、私たちは将来世代に安定的で持続可能な医療制度を引き継ぐことができるのです。国民皆保険制度を守り続けるために、国民一人一人がどのように協力し、何を優先すべきかを見直すことが今後ますます重要となります。これを機に、医療制度の改革と共に、国民全体の健康意識を高めていくことが期待されています。

より詳細な情報や最新の取り組みについては、以下をご参照ください。

厚生労働省「医療保険制度」（厚生労働省）
「未来へつなぐ医療・福祉情報局」では、医療・介護・福祉に関する様々な情報を発信しています。（未来へつなぐ医療・福祉情報局）

5. まとめ：医療費問題への社会全体の対応

医療費の増加は、現代社会において避けて通れない喫緊の課題です。私たちは、急速な高齢化社会の進展とともに、医療技術の発展に伴う費用の増加に直面しています。これは、国民皆保険制度の維持を困難にし、保険料の負担が増加するという現状をもたらしています。

まず、国民皆保険制度のもとで、私たちはそれぞれが何らかの公的医療保険に加入しています。例えば、健康保険組合に加入する大企業の従業員は、企業と従業員が保険料を折半し、従業員やその家族の医療費をサポートしています。これは、国の医療費全体を支える重要な役割を担っています。しかし、近年では高齢者の医療費が急増しており、それに伴って健康保険組合も多大な負担を強いられています。

最近のデータによると、健保連の発表では、健康保険組合の保険料率は過去最高を記録しており、その背景には、国全体の医療費が増加しているという現状が影響しています。特に、2008年度以降、後期高齢者医療制度が開始されてからは、その傾向が著しく、高齢者への医療費負担が現役世代に重くのしかかっているのです。例えば、2015年度の平均保険料額と比較すると、2025年度の負担額は約6万円増加しており、これは決して無視できない問題です。

この状況を改善するためには、持続可能な医療制度を築く努力が多方面から求められています。政府や医療機関、保険組合、そして私たち国民一人ひとりが、それぞれの役割を認識し、改善策を講じる必要があります。具体的な対策としては、以下のような点が挙げられます。

医療費の適正化：無駄な医療費を削減し、医療資源を効率的に活用します。重複受診の防止や、不要な検査の削減などが考えられます。
予防医療の推進：健康診断の受診率向上、生活習慣病の予防、健康的な食生活や運動習慣の普及を通じて、国民全体の健康増進を図ります。
健康意識の向上：国民一人ひとりが自身の健康に責任を持ち、主体的に健康管理に取り組む意識を高める教育プログラムや情報提供を強化します。
介護との連携強化：医療と介護の連携を強化し、高齢者が住み慣れた地域で質の高いサービスを受けられる体制を構築することで、不必要な入院や長期入院を減らし、医療費を抑制します。
地域包括ケアシステムの推進：医療、介護、住まい、生活支援、予防が一体的に提供される地域包括ケアシステムをさらに強化し、高齢者が地域で安心して生活できる環境を整備します。

最も重要なのは、医療費の増加に対して社会全体でどのように対応していくかです。個人の努力はもちろん、社会全体で負担を分かち合い、支え合う意識が不可欠です。持続可能な医療制度を目指すため、私たち一人ひとりが主体的に関わることが重要です。

医療費の増加という大きな課題に直面していますが、皆が協力し合うことで、持続可能な未来を築けるはずです。これからのために、社会全体での意識改革と具体的な行動が求められています。